東京都中央卸売市場の一つであり、水産物の取り扱い規模で世界最大級の築地市場(中央区)を豊洲市場(江東区)へ移転することが、都政の大きな課題になっています。そこで、移転を巡る経緯や問題点などについて、都議会公明党の東村くにひろ幹事長(都議選予定候補=八王子市)に聞きました。
――なぜ、築地市場を存続させないのですか。再整備ではダメなのですか。
築地市場は、開場から80年以上、経過しています。施設の老朽化が進み、建物の一部が破損して落下するなど安全性に不安があります。部分的な改修工事による対応では限界があり、一刻も早い対応が必要と指摘されています。
都は1991年から本格的に現在地での再整備に着手しましたが、工事の長期化や整備費の増大、営業活動への深刻な影響など、多くの問題が発生。このため99年に都と業界との協議機関である築地市場再整備推進協議会で、現在地での再整備は困難との結論が示されました。
――豊洲を移転先に選んだのは、なぜですか。
築地市場は首都圏の生鮮食料品の流通における中核的役割を担っています。移転先の条件として、高度な品質・衛生管理ができる卸・仲卸売場に加え、物流の効率化へ向け広い駐車場や荷さばきスペースを配置できる約40ヘクタールのまとまった敷地の確保が必要でした。
また、輸送時間やコストの面で、築地がこれまで築いた商圏に近く、機能や経営面で継続性が保てる位置にあることなどを条件に、五つの候補地を検討した結果、全ての条件を満たすのは、豊洲地区だけでした。
都議会公明党は2010年3月、豊洲への市場移転・整備費を盛り込んだ中央卸売市場会計予算に対し、新市場の土壌を無害化し、知事が市場事業者の合意形成など状況打開に向けた有効な方策を検討する――などの条件を付帯決議で付けた上で賛成し、同予算が可決されました。
――豊洲では土壌汚染や「盛り土」の問題が指摘されていますが、食の安全は守られるのですか。
昨年11月7日に予定されていた豊洲市場への移転について、小池百合子知事は安全性を再確認するため、延期することを8月31日に表明。さらに9月には、土壌汚染対策として建物下に「盛り土」を行うと都が説明していながら、実際には地下空間を設けていたことを明らかにしました。
これを受け都議会公明党は、「豊洲市場整備問題対策プロジェクトチーム」を設置し、これまで5回にわたり徹底した現場調査を実行。安全対策を促してきました。
一方、豊洲市場は昨年12月、施設の完成後、建築基準法に基づく「検査済証」の交付を受け、耐震強度も問題なく、安全性が確認されています。
市場の地下水モニタリングでは、再調査の結果、環境基準を超える有害物質を検出しましたが、3月19日、専門家会議の平田健正座長は、“豊洲市場の地上部分は安全、地下は科学的知見で対応可能”との見解を示しました。今後、公明党は専門家会議と都の対応策をチェックしていきます。
――小池知事のロードマップ(行程表)=下に解説=への公明党の対応は。
小池知事は3月24日の記者会見で、豊洲市場における安全・安心の確保や事業継続性などを見極め、移転について総合的に判断するため、新たに「市場のあり方戦略本部」を立ち上げると発表しました。
知事は、この戦略本部で、昨年11月に提示した豊洲市場への移転に向けたロードマップを基に一つずつステップを踏むと強調しました。ロードマップでは「安全性等の検証」「環境アセスメント」の二つのステップを経て、夏ごろには「総合的な観点から移転するかどうかを判断」するものです。
今後、戦略本部では、豊洲、築地の両市場の課題を整理するとともに、市場会計の収益構造や、長期的な収支も含めた事業の継続性を検証し、市場の将来を見据えて検討を進めます。
公明党は知事に対し、スピード感を持ってロードマップの着実かつ確実な推進を要望。「総合的な判断」については、都議選(6月23日告示、7月2日投開票)前が望ましいと考えています。
また、知事は「安全は科学的、法律的な根拠に基づくものである一方、安心は消費者の理解と納得によるもの」と述べています。
まず、都民の安心を確保するには、豊洲市場の「見える化」を進めるべきです。都議会公明党は都民が正確な情報を得るための市場見学会の開催を提案しています。また、有害物質のベンゼンが地下から揮発し、地上部に及ぼす影響については、大気中の有害物質の濃度を電光掲示板で表示したり、市場以外の大気と対比するなど、客観的に安全性を判断できるよう提案しました。
■ロードマップ(行程表)
豊洲市場への移転に向けた行程を、小池知事が時系列で示したもの。
ロードマップによると、地下水モニタリング調査の結果などを踏まえ、都が設置した「専門家会議」と「市場問題プロジェクトチーム」が報告書をまとめる。
これらを基に、新たに設置された「市場のあり方戦略本部」が豊洲と築地の両市場に関する課題を整理。次に、豊洲市場の環境影響評価(アセスメント)について審議する。
この結果を受けて、知事が最終的に移転するかどうかを判断する。その後、必要に応じて追加の対策工事を行い、農林水産大臣の認可手続きに入る。これらの検証、手続きを経て、豊洲市場への移転に向けた環境が整う。
■百条委で追及 用地取得「水面下交渉」の真相に迫る
地方自治法100条に基づく強い調査権限を持った「豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会」(百条委員会)が2月、都議会に設置されました。同委員会の委員は、関係者の出頭や証言、記録の提出を請求できるなど強い調査権限を持ちます。正当な理由なく出頭を拒否したり、偽証したと認定されれば、罰金や禁錮刑が科せられます。
公明党は百条委で、豊洲用地の取得に関して、都側と地権者(東京ガス)との交渉が生々しく記録された東京ガスの内部メモの存在を突き止めました。メモには、石原慎太郎知事(当時)の片腕だった浜渦武生副知事(同)の意向として、土壌汚染による値下がりについて「(都が)『安全宣言』で救済するからそれまでに(用地売却の)結論を出せ!」とありました。政治的圧力があったことは明らかです。
また、公明党は、これまで存在が知られていなかった都と東京ガスが交わした「確認書」を発見し、都が譲歩して同社の負担を大幅に減額したため、多額の都税が投入されたことを指摘。浜渦氏を糾弾し、一連の「水面下交渉」の真相に迫りました。
百条委は引き続き、証人喚問を行い、全容解明をめざします。
公明新聞:2017年4月3日付